幸せは短命

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「母から、ですか?」 「うむ、つい先刻、急ぎで来た」 突如、劉備殿に呼び出され、わたしは1通の手紙を手渡された。彼の隣には、諸葛殿もいる。 「(はて・・・?)」 わたしは首を傾げる。差出人は確かに母上の名だ。けれどこの筆跡は、別人だった。明涼のものでもない。 そこでわたしは、1つ思い当たった。明涼との、手紙のやり取りである。 彼女からの最新の手紙には、こう書かれていた。 『兄君様方が、また良からぬ策を練っておられる様子にて、十分にご注意くださいませ』 ヤバイ。何かこう、察した。 大変嫌な予感を感じながら、開く。ザックリ略すと、中身は以下の通り。 『呉国太様が危篤状態で、娘と孫に会いたがっている。阿斗様と共に、早急にお戻り願いたい』 要するに、母上が死にそうなので、劉備殿のご子息を連れて戻って来いということ。 わたしは読み終えると、ふう、と小さく息を吐いた。そして、手紙を綺麗に折り畳み。 「いい加減にしろよあのバカ共!」 「!?」 「奥方様!?」 全力で床に叩きつけた。2人分の驚きの声は、最早気にならない。 わたしは怒っている。そう、マジで怒っている。何故かって?それは実に簡単な話だ。 この手紙の内容が、真っ赤な嘘だから、である。 母上が危篤?無い、あり得ない。明涼曰く、彼女は毎日元気で、相変わらず庭の草花のお手入れに勤しんでいるらしい。 さらに付け加えれば、我が母上は、万が一死にそうになっても「最後に娘と孫の顔が見たい・・・・・・」とか絶対言わないタイプ。わたし知ってる。あの人はとても娘思いだが、私情と国への憂いを決してゴチャゴチャにはしない。きっと、最後まで呉の国を案じ、ついで程度にわたしの未来も案じて、亡くなるのだろう。 結論:わたしを連れ戻したいが故の偽手紙で100%、ファイナルアンサー! 早速、上記の事実を包み隠さず全て、劉備殿と諸葛殿に説明した。 「なるほど、そうであったか」 「我らと孫権殿との関係は、残念ながら悪化しております。戦など起きてしまう前に、奥方様を手元に戻しておきたいのでしょうな」 「毎度毎度、ウチの兄たちが本当にご迷惑をおかけします・・・」 2人は早々に納得してくれた。理解が早くて有難い。 「さて、尚香はどうしたい?」 「へ?」 で、理解の早い劉備殿は、わたしに唐突な問いを投げかけた。
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