第1章「旅立ちの時」

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副長と呼ばれた男は、腕組みをしながら 眉を寄せ 震える彼らに告げた。 「恐れる事はねぇ! 本気で奴らが攻める気なら…今頃 俺達は皆殺しにされてる。 あの 大砲は見せかけだ。 俺達を精神的に追い込み、士気を乱す。…敵の策略だ。 あんなのに付き合うこたぁねぇ、無視しろ!」 副長の言葉に男達は、気持ちが和らいだのか 少し安堵の表情を見せた。 黒い軍服を着た副長は微笑すると、後ろにいる部下に告げた。 「島田! 相馬! 例の物を持ってこい!」 「承知しました!」 二人は元気よく答えると、奥から樽を乗せた荷車を転がしてきた。 「土方さん 持ってきましたよ。」 島田が笑顔で言うと、土方と呼ばれた男は無言で頷き 大砲に恐れる男達に叫んだ。 「この蝦夷(エゾ)〔現在の北海道〕に来て以来、お前達は よく戦ってくれた! これは……俺からの細やかな褒美の酒だ! 総裁から頂いてきたものだが、遠慮なく飲んでくれ!」 すると それまで暗い表情だった男達は、歓喜の声をあげた。 バカみたいに騒ぐ男達を静止させるように、土方は再び叫んだ。 「ただし! 今は交戦中だ。 飲み過ぎて、いざ戦になった時 使い物にならないと困るので、ひとり 一杯のみだ。 いいな?」 「おおぉぉ!」 男達は一斉に拳をあげ 土方に答えた。 「相馬、島田。 みんなに配ってやれ。」 土方に言われると二人は「はい」と答え、男達に酒を注ぎ始めた。 そんな光景に笑顔を見せながら、土方は少し奥に ひとり座り込んだ。
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