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買い物袋を2つさげて私は家へと向かっていた。 雨が降っていて荷物が重い。家に着いた時には制服はびちょびちょ。 妙な寒気がした。 「ただいま」 「おかえり」      お父さんが白い息を吐きながらドアを開けた。 めがねがくもっている。 その白さがなんだかくすぐったい。 「寒いな…外…めがねくもっちゃったよ…」 めがねをゴシゴシふきながら…キュッキュッと心地いい音がする。 「今日はおでんだよ」 「ほんと?」 お父さんは嬉しそうにイスに座った。 「手、洗ってきてね」 「は~い」 子供みたい。 私は笑った。 目があった。 「なに?」 「幸せそうだなーって」 「幸せだもん」 「良かった」 「亜衣は料理、上手だよ」「お母さんの味に似てる?」お父さんの手が止まった。私は答えをじっとまった。「あぁ…似てるよ」 淋しそうに。 「良かった」 私はそっと笑った。 「お母さんとのこと聞きたい。出逢った頃の話しとか…無理にとは言わないけど」私は湯気を見ながら言った。遠い目をしたお父さんが湯気のすきまから見え隠れする。 まるで月のように。 「いいよ」 そう言ってから黙りこんで静かに話し始める。
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