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この日もいつものように国語科教室に谷村を訪ねていくと、薫がいつも勉強を教わっている机に他の生徒がいた。
(あ...3年生だ。)
扉から中をのぞきこむ薫に気づいた谷村が、教科書とペンをもって出てきた。
「今日は3年生が担当の原先生に補講をうけにきているから、国語科が空いてないんだ。」
「そう、ですか...」
薫は残念そうにして、教室に帰ろうとした。すると、谷村が廊下の向こうの方をみつめて、
「進路相談室あいてるみたいだから、そこでいいなら大丈夫だけど、」
「え、ほんとですか!?全然良いです!ありがとうございます!!」
まさか谷村がそこまでしてくれると思わなかったので、薫は嬉しくて心がはずんだ。
ガラガラッ
進路相談室の扉を開けると、思ったより狭く、少し大きい机が1つとイスが2つあるだけだった。
初めて、谷村と本当に2人っきりという状況になったのに気づいて、薫は自分でも心臓がドキドキするのがわかった。
(せ、先生と2人っきり...ど、どうしよう...!)
薫が固まっているのを気にとめず、谷村はさっさとイスに座った。
「何してんの。ほら座って、」
「は、はいっ!!」
薫にとっては待ちに待った2人きりだったが、だから何ができるというわけでもなく、時間は過ぎていった。
「今日はこの辺にしとこうか、」
「は、はい...」
(せっかくのチャンスなのに、なんにもできなかったなぁ...)
自分のふがいなさにがっかりし、ペンを筆箱にしまっていると...
コロッ
(あ、消しゴム落としちゃった...)
「よいしょっ、」
そして一度かがんで、机の下に落ちた消しゴムを拾って、頭をあげようとしたとき、
ガンッ!!!
机に頭をぶつけた。
「いっ...たぁ~!!!!」
「ふふっ、何してんだよ大丈夫か?」
(えっ...先生いま笑った!?)
「だ、大丈夫じゃないです...痛いです...」
薫は谷村が笑ったのを初めてみたことより、谷村の前で醜態をさらしてしまったことにへこんでいた。
(うぅ...先生の前でこんなドジなことを...)
しかしその失敗が、以外にも幸運をはこぶこととなった。
「まったく。気を付けろよ、」
ポン
谷村の大きな手が、薫の頭に優しくのせられた。
(えっ...えぇぇ~!?)
「ほら、そろそろ帰らないと。」
「はっ...はい...!!」
薫は教科書と筆箱をかかえて、真っ赤な顔が谷村に見えないように逃げるようにして進路相談室を出た。
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