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紙魚(しみ)、というものにいつの頃からか強い憧憬を抱いていた。
それは、誰かの作品を読んで見つけた単語であったように思う。『誰かの作品』とは文学であると見栄を張れる、幼い私の精神を満足させる題材であったのかもしれない。
しかし、違うのかもしれない。今更になってそのようなことは重要ではなく、ただ紙魚という単語に文学的な香りを感じたために気に入っただけのことなのだ。
読書を趣味と明言している割に、私はそんなに本を読んではいない。それは汚点でしかなく、文学少女を気取りたい身とあっては、せめて文学的なもの(と勝手に思い込んでいる)に触れたかったに違いない。それでも、詳しく調べようとしなかったのは、所詮興味がなかったのだ。
紙魚という単語を、大学生になりほんのちょっと調べてみた。幸いインターネットというものは便利に出来ている。
Wikipediaにて調べたそれは、昆虫であり、とにかく気持ち悪かった。ごつごつとした黒く細長い、芋虫のような胴体。触覚めいた白っぽい足。人目で生理的嫌悪を催し、鳥肌まで立つ。絶対に直接はお目にかかりたくないと感じる類の虫だ。紙魚は擬態していた、いや、させられていたのだ。文学というイメージの向こうにかすかに透けて見えたそれは、こんなものではなかったはずだ。
とここまで書いてため息をついた。パソコンの前から逃げ出し、ベッドに倒れこむ。こちらの方が余程心地いい。自分の胸を抉るようないくつかの文章を書いても、ただ本当に胸が痛んだだけ。先程まであんなに湧いていた創作意欲とネタは、気づかない内にぱっと散っていた。紙魚を交えて自分の密かな感情を暴き、私は何を書きたかったのか。今はもう、銀河を越えた遥か彼方にその名残が見て取れるだけだ。
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