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「考え事をしていた。そしたら、ここにいた。どうやってかは、知らぬ」
「考え事?」
男の子の揺れは、段々と収まっていく。足はもう地面についていた。
「彼の方がもう会うてくれぬ。こんなにもお慕い申しているというのに」
少年は遥か彼方を見た。前を。どこへ続くとも分からない、林の向こうを。空だけの景色は見えない。上を見ても、木々が邪魔をするのだ。
「どうして?」
「私が元服を済ませたから。父様の妃には、もう会える立場ではない」
「寂しい?」
泣いているのかと、少年を伺う。暗闇で何も見えない。しかし、少年は飽きもせずどこへ続くとも知れない闇の向こうを見ていた。きっと、泣いてはいないのだろう。
「もう昔のような関係には戻れない。いや、しかし、そちらの方がいいのかもしれない」
男は立ち上がった。鎖からも手を離す。
「私は、先に行くぞ」
振り返ることもせず、男は闇の中へと消えていった。橙色の一筋すら、もう見えない。
「私は、もう少しだけここにいるよ。ずっとは、いられないけど」
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