深き山の変人男

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 ここはエイルクルシードと呼ばれる大国の属国。  響きを良くするための言い回しだと、観光スポットが多い観光国の一つだ。  そのエイルクルシードの決して広くはない国土にある一つの山の深部。  最深部じゃないだけに、人がここに迷い込んでくることはあるが、滅多なことでは人も来ない。  モンスターもそこそこいる辺境の地、一言で片づけるならそれが妥当であると言える。  さて、滅多なこと以外で深部に人が立ち入ることは無い理由が、これから語る短いお話の最初に語られる。  静観ください。森の夢、そして出会い……意味わかんない? そんなのわかってますよ。自分もわかりません。  この山の名はミラニスカーラオ山と正式に決められている。  昔何かがあったわけでもないのに、意味もなく長ったらしい名前が付く山で有名だ。  麓の街、というかエイルクルシードに住む者たちは略してラオ山と呼ぶ。  特にこの山に尊敬の眼差しを向ける理由もないので、適当な名が与えられるミラニスカーラオ山の一つの呼称がラオ山ってわけ。  他にも、麓の街の名前に併せてミラニス山や、無駄に高くて面積もデカい山からとって、ムカデ山と本当に様々な呼称がある。  このミラニスカーラオ山は温厚なモンスターから獰猛なモンスター、スライムの縄張りであることは有名だがそれ差し置いても豊富な種類の薬草や、家を造る際に用いられる材木に、ミラニスの人たちがする山菜採取と、大抵の生活材料はここで揃うと言っても過言ではないちょっとすごい山。  スライムがどうして獰猛なのかは今は置いといて、この山の不思議と語られてきたのを、若干ながら解決に導いた一昔前に派遣された調査隊、メイル・ラルカニア率いる第八精鋭騎士団の計31名で構成されている通称のんびり隊の話をしよう。聞くなら一回300ニス(ニスは通貨)で。 待って、そんな冷めた風にどこかに行こうとしないで。タダで話すからさ!  ……こほん。  一昔前と言ったのは大嘘で、680日、約2年前のことで、何十年何百年も昔ってほど昔じゃない。  そもそも何十何百も昔の話ならほんの少し、それも事実かどうかも定かじゃない真実と、大半を占める嘘が織り交ぜられる。  いつしかその話が事実であれ、調査を誰もしなければ、自分の目で確かめる以外何の信憑性もないありきたりな作り話の一つに数えられる。
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