桐谷塾開校

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健は、健志からの知らせを受けて訓練場から急いで桐谷塾へと向かった。 健が居間へと向かうと、兵衛は健志と談笑していた。健は居間へ入り兵衛に頭を下げ兵衛の向かいに座った。 「どうも兵衛さん。健志からお話は聞きました。有難いお話なのですが兵衛さんも商売です。米を寄付されてるうえに割引なんて、とんでもない事だと…すみませんが、御受けする事は出来ません。」 健の言葉に兵衛は驚いていた。損得で生きて来た商人からしたら、こんな美味しい話を断られるなんて思っていなかったからだ。 「桐谷はんのお気持ちは、ありがたいですが私も商人の端くれ、一度口にした商談を曲げるわけにはいきまへん。」 どうやら兵衛は頑固者の様だ。蔵之介の粘り強さも親父譲りなのだと健は心の中で思った。 「…代案ならどうですか?正直、我が桐谷家に重要なお願いになりますが。」 健は、良い案が思い付いた様で笑顔で兵衛に聞く。 「どういったもんでっか?」 「私は鉄砲が大量に欲しいのですが、今の桐谷家では難しい。それに私は鉄砲を桐谷家で生産してきいたいと考えています。なので、腕の良い鉄砲鍛冶師が必要です。兵衛さんは、元々堺の出ですよね。雑賀の孫市殿と土橋殿と会わせて貰えないでしょうか。」 この時代の雑賀は武装商人であり、堺の港に良く出入りしていたのだ。そこで、元々堺の商人である兵衛に孫市達との仲介をしてもらおうと思ったのだ。 何故健が武装商人と会おうと思ったのかと言うと、雑賀衆・根来衆・国友衆がこの時代の鉄砲を扱う集団で有名なのである。 この3つの勢力は、鉄砲を生産出来るだけでなく、鉄砲撃ちとしての腕が良く、これからの戦を制するには必要不可欠な存在だと健は、考えているからだ。 平成の世で生まれ育った健からしたら、鉄砲などの殺傷力とその恐ろしさはTVのニュースでも良く知っていた。内乱やテロなどで沢山の人が死ぬ…軍隊を持たない現代の日本人でも銃の恐ろしさは十分理解している。 まだ、織田家が本願寺と敵対していない、今しか友好な関係を築く事が出来ないからだ。 有名な信長包囲網。その中心であった本願寺の切り札であった雑賀の鉄砲衆…健は、織田家が牽制される前に雑賀を調略しようと考えているのだ。 「雑賀でっか。…何故、根来でも国友でもなく雑賀を選びはったんでっか?」 流石一代で豪商に登り詰めた男林崎兵衛である。鋭い所を突いてくる。
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