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「して…信盛。この状況のどこがめでたいのじゃ?」
「……。」
誰一人として口を開く者は居ない。その中で信盛は何かを言おうと口を動かすが言葉が出てこない。
「ふ…何も言えぬか。皆の者よ今の織田家は、周り中敵だらけだが我が織田家に盟友が現れた。」
家臣達はざわざわと騒がしくなったが、一人の男が入って来た瞬間に静かになった。
男の名は徳川家康である。今川義元が桶狭間で討ち死にし、今川家の支配力が弱まったのを見極め旧姓の松平を改め、徳川家として独立したのだ。
後の天下人である徳川家康は、悠々と信長の前まで来た。
「信長様、此度は同盟国としてお招き頂き有難うございます。」
織田家の家臣達は何故、家康がこの場にいるのかが未だに理解できずに戸惑っていた。
それもそのはずである。今川家から独立した徳川家は、今川派の民の一揆が数度起こるも直ぐに鎮圧し、休む事なく織田家に家康直々に出向いたという事になる。
一揆を鎮圧後数日で国論をまとめて尾張へ来たという事だ。並の大名なら無理だが、それを成し遂げるのが徳川家康という男なのだ。
同盟の交渉を当主自らが他国へ出向いて行う事は前例が余り無い事だろう。
ましてや今川家の後詰として桶狭間に参戦していた者が、織田家に数人の供だけを連れて現れるだろうか…これは家康の度胸の表れか、もしくは織田家に徳川家の命運を賭けたのか…織田家の家臣達が知るはずもない。
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