徳川家康

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日が沈み辺りが何も見えない山道を進む数人の武士がいた。 「家康様っ!家康様っ!」 幼き頃の約束を思い出していた家康は尾張領に着いた事に気づきもせず共の者に呼ばれて気が付いた。 「すまぬ。少しもの思いに更けっておった…あれは清洲城か。懐かしいのぉ!」 遠目でも立派だと分かる程の城が家康の目に映っていた。 家康は人質時代に吉法師と度々清洲城へと遊びに行っていた。人質であった竹千代が比較的自由に外出できたのは、吉法師のおかげであろう。 清洲城下に着いた家康達は真っ直ぐに清洲城へと向かっていた。 そこへ1人の織田家の者であろう武士が家康の前へ現れた。 「お初にお目に掛かります。手前織田家家臣桐谷健と申します。徳川家康殿とお見受けいたしますが間違いはありませぬか?」 (桐谷だと!義元様を討ち取った若武者がこの者か!) 家康の前に現れたのは健であった。徳川家が一揆を鎮圧したという報を聞くと、史実通りなら家康が同盟を組むために尾張へ現れると健は知っていたのだ。そのため毎日清洲城下で家康を待っていたのだ。 徳川家康という人物を一目見てみたかったのだ。 そんな健の待ち伏せに家康は驚いたが冷静に返答をした。 「いかにも。私が徳川家康です。義元様を討ち取った人物…一度お会いしたかったのですが、こんなにも早くお会い出来るとは思いもしませんでした。」 家康は一度は主と認めた者を討ち取った人物と会いたかったのだ。そして、聞きたい事が一つあった。 「義元様の最期は?」 家康は少し悲しそうな目で健に問い掛けた。今川家から妻を貰っていた家康から見れば、今川義元は義理の父であり、義元は家康を我が子の様に可愛がっていたのだ。 「今川家当主として立派な最期を遂げられました。」 健は家康に簡潔に義元の最期を説明した。 「そうですか…」 今川家との決別を決めていた家康には、その言葉だけで十分であった。
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