徳川家康

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「どうぞ。清洲城まで私が案内いたします!家康様同様私も同盟には賛成ですから。」 健はニカッと笑顔を見せて家康に言った。 「う…うむ。」 家康はまたも驚かされた。先の戦で主君を討った者に待ち伏せされた上、同盟の為に家康が尾張まで来たのは織田家の者なら推測が出来るだろうが、健は「家康様同様」と言ったのだ。 家康が織田派だと今の時点で推測出来る者はいないだろう。 家康は幼少の頃を織田家の人質として過ごし、そのせいで松平家は苦境に陥ったのだ。 信長と家康の関係を知る者以外は、考える事が出来ないのである。 体から冷汗を流し家康はこの時確信した。 (この者がいる限り桶狭間の戦は十中八九、今川家は敗けていたであろう) この時代の者から見た健達の知識は、先見の才では無く予知能力と言われるほど的中していた。 時代の歴史を知る者は、軍事力以上の力を持つのと同じなのだ。 自分の行動を十中八九的中されるほど、政治的にも軍事的にも恐ろしいことは無い。 「家康様、到着いたしたので、私はここで失礼いたします。…家康様一言よろしいでしょうか。」 健からは先程からの笑顔は無くなり、真剣な顔付きになって話出した。 家康は健の顔付きが変わった事に気づき馬を止め、健の言葉を待った。 「武田を深追いなさいますな。では…」 健は頭を下げ自分の屋敷へと帰って行った。 「あの奇妙な者が織田家の中でも武勇に名高き桐谷健なのでしょうか。」 共の者が家康に如何わしいといった顔で言った。 「いや…あの者が桐谷健であって欲しい…」 家康は今だ震える手を見つめ呟き清洲城の門を潜った。 この時の家康は織田家と盟を結ばなかった時の徳川家の末路を感じていた。
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