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パチン! 俺の手の平が自身の身体を打つ音が、他に何の音もない蒸し暑い部屋に響く。 梅雨が明けたばかりの、まだ湿り気の残る夏空。 今年は気温が上がるのも早く、草花が多く生い茂り、その中で繁殖する害虫も例年より増えているように感じる。 「……9匹」 何の感情も込めず、俺は一人、そう呟いた。 古惚けたアパート。 管理人もアパートと同じように古惚け、敷地内の空き地を手入れする人間もいない。 少し前まで隣に入居していた女性が空地の手入れしてくれていたが、新しくて、一人暮らしでも安全な住居を見つけたらしく、彼女は挨拶もそこそこに出て行った。 残されたのは、彼女の匂いの微かに残る古惚けた部屋と、青々とした草の生い茂る空き地だけだ。 パチン! 「チッ。逃がした」 プーン、と、神経を逆撫でする何とも言い難い音と共に、それは俺を馬鹿にするかのように、部屋の何処かに飛んでいった。 目を凝らすと一瞬はその姿を視認するものの、小さな黒い点でしかないそれは、すぐに部屋の影に紛れ、視界から消えるのだった。
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