兄の影

3/20
前へ
/20ページ
次へ
『はぁ、一から十まで面倒だ。』 春も麗らか極まる今日この頃。 歩道の桜が満開に咲く坂道を、花の一輪すら一瞥もすまいとするがごとく、俯いて視線を地にはいつくばらせる若人が一人。 『・・・・そんなに俺を見ないでくれ。』 と言うか、俺の事だ。 《・・・ネェネェ、アレッテサァ・・センパイノ・・・・》 周りはきっと、小声で話しているつもりなのだろうさ。 だがね、 聞こえてるっつの!!! どうしてこうして、 俺だけがこんなにも恨めしい面を下げにゃならんのだ!? なんだ?俺は地面LOVEか!? 母なる地球の母性に『メロメロパンチ』だとでも!? そんな性癖は俺にねぇぞ! どこの地底人だ! 《・・・ナンカセンパイトハゼンゼンチガウネェ・・・・》 『・・・・・』 《・・・・ジミッテイウカ・・・・ヤメナヨ、キコエルヨ・・・》 『・・・・』 いや、やめた、いちいち気にするのはよそう。 不毛だ。 分かっていた事なんだ。 一覇と同じ学校に通う・・・ 兄と同じ場所に赴く・・・・・ その意味ってヤツはさ。 深いため息とともに俺は、一瞬怒りでもたげかけた首を、また戻すのであったが、 実際はそうはならなかった。 呼び声、というか何と言うか・・・、 「お~~ぃ!カズマぁ!そんな下ばっか見てると不審者にしか見えないぞぉ~。」 『ブチッ!』 戻しかけた視線は直ぐさまヤツを捕らえる。 「相沢ぁ!誰が不審者だぁ!?」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加