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何日か前から、今日の夕刻までも降り続いた雨に、些かうんざりしていた人々の中には、或いは、梅雨の合間に僅か訪れたこの穏やかな夜空を見上げ、束の間の夏の宵を楽しむ人も居るかもしれない。
しかし、石嶋祐樹にとっては、今日の天気がどうあるかや、夜空がどうであるかなどは全くもって関係が無い様である。
実際、彼は仕事を終え、職場を出て、そこに隣接されている駐車場にあるシルバーのマーチ(、それは無論彼の愛車である。)に乗り込むまで、一切空を見上げはしない。ただ、昼間の蒸すような暑さに焼かれた熱の、今は冷めきったアスファルトと、踵の踏み潰された黒い靴が左右交互に踏み出されるのを眺めるだけだ。
頭を垂れ、猫背で歩く姿は小柄な彼を更に小さく見せた。
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