石嶋祐樹

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身長は、160cmもないように見えた。右手に黒いビジネスバックを如何にも重そうに持ち、ゆるゆると重々しい足取りで歩く。黒いプラスチックフレームのメガネは裏地に白と黒のストライプ模様が施されており、如何にも今風のオシャレなメガネだったが、それを付けている顔は疲れきり窶れていた。 面長で、目は細く切れ長で、鼻は低く丸い。 右の頬には小さい黒子が遠慮がちに一つあるが、別段それと言った特徴のある顔でも無い。 敢えて特徴を挙げるなら彼は幾分貧相な顔立ちだった。 そう言った意味で言うと、彼がそのメガネを掛けている事は正解だろう。それは比較的、彼には似合っていたし、彼の顔のどの部分よりも特徴的だった。何より、彼の顔の貧相な事をその黒いメガネは上手くカバーしてくれていた。 実際、彼はある程度のセンスは持ち合わせていた。 ダークグレーのスーツも体格に良くフィットしたものを選んでいたし(或いは、オーダーメードしたものかもしれない)、カノッサのビジネスバックも、カジュアル過ぎず、しかし年寄り臭くは無かった。27歳の彼が持つには最も適した部類に入ることは間違いだろう。 短めに刈り込んだ髪も彼には良く似合っているし、くせ毛の彼には恐らくそれが最も良く似合う髪型だ。 しかし、如何せん彼はくたびれ過ぎていた。 ダークグレーのスーツに黒いシューズの彼がこのまま夜の暗闇に溶け混んだとしても、恐らく誰も気付きはしないだろう。
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