石嶋祐樹

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国道127号線沿いにあるその建物は、1階が書籍と文房具類を販売している。そして2階は、半分のスペースでCDやDVDをレンタルし、残り半分のスペースでCDやDVD、そしてゲームソフトの類を販売している。 片側2車線の比較的大きな国道沿いではあるが、そのレンタルショップは市街地からは少し外れた郊外にあり、たっぷりとした敷地を有していた。店舗の隣には広々とした駐車場が備えられており、ゆうに50台は駐車することが出来る。 郊外ではあるが、比較的、交通の便が良いことと、周辺にこれだけの規模を備えた同種の店が無いことから、休日などは、この駐車場が一杯の車で埋め尽くされた。 しかし、今は平日の午前1時だ。駐車されている車は数台しかいない。 そのうちの1台は、祐樹のシルバーのマーチだった。 彼は、仕事が終わり、そのまま車をとばし、ここへ来た。特に急ぐ用件があった訳ではない。しかし、彼は法定速度からはかなり逸脱した速度で車を運転し(車内にはかなりの大音量で、ザ・ブルーハーツのファーストアルバムが鳴らされていた)、何台かの車を追い越し辿り着いた。 勇樹は忌み嫌う職場から少しでも早く遠くへ離れたかった。そして、頭の中にある、今日一日の不快な出来事を少しでも早く拭い去りたかった。 その思いが彼にアクセルを強く踏み込ませ、大音量の音楽、それも彼のもっとも好きな音楽を鳴らさせた。 勇樹は元来、無軌道な行動をする男ではない。無茶な事はしないのだ。むしろ、どちらかと言えば冷静な男だと言えた。 もの事を現実的に考える。自分のとった行動がどの様な結果を招くかを考え、危うい事は極力避ける。 しかし、今は全ての現実的な出来事を頭の中から追い出してしまいたかった。 勇樹にとって、今、彼を取り巻いている現実は堪え難いものであった。 彼は、自分が今、出来うる限りの手段を以って、現実から逃避していた。 例え、それが、無意味で危うい事であったとしても。
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