一章:Jugenfreund

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この日に小中学校も入学式があるのか、小中学生が散見された。 ピカピカのランドセルを背負って歩く小学生、着慣れない制服に指定の鞄、ローファーが真新しい中学生を見る度に淳也は懐かしさを感じた。自分にもこんな時代があったんだと。 ふと横を向くと、母親との話に上がっていた豪邸の前を通りかかった。 もう豪勢だと言うしか無い程デカい。一般的な豪邸のイメージをそのまま現実に持ってきたような前庭があり、大きな門がある豪邸だった。 だがこれは氷山の一角だろう。まだ塀の向こうには未知の空間が広がっているに違いない。 「いったいいくらすんだろな…おっといかんいかん」 庶民らしいセコい金銭計算をしようとしたが、本来の目的を思い出して足を進めた。 長く続く豪邸の壁が途切れてから暫くした時、駆け足で後ろから誰かが走ってきた。 しかしぼーっとしていた真也はそれに気付かず、ずっと前を向いていた。 そしてフラッと右に出た時、後ろから走ってきた誰かとぶつかった。 タックルをくらった真也は倒れ込むようにコケると、ゆっくりと後ろを振り返った。 そこには同じ高校の制服を着た、お嬢様風情が漂う黒髪の美女が尻餅をついて頭を抑えていた。 「大丈夫?」 真也は自然と尋ねていた。 「大丈夫だぞ、それよりお前こそ大丈夫か?」 「大丈夫だが…」 「そう、ならよかった。では御機嫌よう」 お嬢様はすぐに立ち上がると、また駆け足で去って行った。 真也は立ち上がろうと手をアスファルトにつくと、掌が何かを押さえていた。 よく見ると、自分のペンダントと似た様な形の物だった。 (もしこれが俺のと同じなら…) 偶然が好奇心を駆り立てたのか、真也はペンダントを開けようとした。 だが、何故か急に開けてはいけない、と言う心理が好奇心の邪魔をした。 その瞬間、小学生時代の記憶がボンヤリと浮かんできた。 「……………………し………や……く……」 幼い少女の声が、ノイズ付きで頭を過った。 中学校から現住地に住んでいるのだが、中学1年時代の事故のせいであまり昔の事は覚えていない。断片的に覚えているのが精一杯だった。 ふと我に帰り、女の子が走って行った方向を見ると誰もいない。 一息吐くと、真也は高校に向かって走り出した。
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