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東京都あきる野市。
都心から約60分ほどでいける自然豊かなこの街の中に、国家防衛教育法施行後、日本国内では初となる私立の防衛教育組織・東都防衛学院があった。
そしてその学院でいま、ある事件が起ころうとしていた……。
***
2026年5月16日土曜日。時刻は0630時。
学生寮の生徒達が起きるにはまだ早い時間にも関わらず、数人の生徒たちが校門前に集合していた。
「みんな、集まったわね?」
橘和美(たちばな かずみ)はそう言いながら、校門に集まった生徒――和美と同じ東都防衛学院中等部・2年2組に所属する数人のクラスメイトたちを見回す。
「ふわ~っ」
と、その中のひとり――遠藤長太郎(えんどう ちょうたろう)が、眠そうにアクビをした。
それを見た和美はすかさず口を開く。
「こら、長太郎! だらしないわよ?」
「だってよぉ~、さすがに毎朝こんな早起きしてたら寝不足にもなるって」
「なに言ってんの、こんなの早起きの内に入らないでしょ?」
「おい橘、おまえそれマジで言ってんのか?」
「当たり前じゃない。私なんて毎朝4時に起きてるのよ? 早寝早起きは、防衛教育に耐える”強い体づくり”のための基本でしょ?」
和美の言葉を聞いて、長太郎は目を丸くする。
「まあ、その話はこの辺にしときましょう。それよりも早く掃除をやっちゃいませんか?」
そう言って、眞柴想一(ましば そういち)が和美と長太郎の会話に割って入る。
そんな想一の言葉にうなずいて、一三四善司(にない ぜんじ)も控えめに声をあげた。
「そうだね。今日で掃除当番は最後だし……それに、ほら、遠藤さんはもう掃除はじめちゃってるから――」
善司の言葉を聞いて、3人は視線を遠藤真帆(えんどう まほ)へと向ける。
確かに善司の言うとおり、真帆はヘッドホンで音楽を聴きながら、すでに掃除をはじめていた。
「こほんっ」
「なんだよ和美、わざとらしく咳なんてしやがって」
「黙りなさい、長太郎。それより遠藤さんひとりに掃除をやらせとくわけにはいかないわ。橘班、行動開始!」
パンパンと手を叩き、和美は男共を急がせる。
そして自分も箒を使って掃除をはじめた。
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