ドッグファイト事件

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「……犬」  そう、そこにいたのは犬だった。  その犬はだらしなく舌を出し、ヘッヘッヘッと荒い息を吐いている。 「おやっ、野良犬ですか? いまどき珍しい」  メガネを押し上げて、想一がそう言った。 「ねえ、すごいこっちを見てるよ。あの犬」 「おい、善司。野良犬ごときにビビってんじゃねぇよ。俺達は東防中の生徒なんだぜ? 犬にビビってるようじゃ、戦場で戦えないぞ」 「でっ、でも長太郎くん……噛まれたりしたら危ないよ」 「ったく、情けねぇなぁ」 「……あっ、ちょっと! 近づいたらダメだよ!?」  善司は、箒を手に犬に近づいていく長太郎の背中にそう声をかける。  しかし長太郎は、「まかせとけ!」と言って足を止める気配を見せない。 「たっ、橘さん!」  この班の班長に助けを求め、善司は和美の方へと振り返る。  だが和美はと言うと、いつもにも増したもの凄いで目つきで犬を睨みつけ、プルプルと体を震わせていた。 (ああっ、そっか。橘さんも犬が苦手なのか……)  和美の様子を見た善司はそう思い、困った表情を浮かべる。  だが、善司の思っていることとは反対に、和美はとても興奮していた。
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