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東都防衛学院内にある人工芝グラウンド。
そこはいま、ちょっとした騒ぎになっている。
校内清掃をしていた者やクラブ活動の朝練で学校にいた生徒たちはその手を止め、グランドの中央で対峙している犬と長太郎の姿を固唾を呑んで見守っていた。
「この犬っコロ! 大人しくしやがれッ!!」
と、長太郎が啖呵をきって、野良犬に向かって飛び掛る。
だが、素早い動き出しを見せた犬はそれをなんなくかわした。
地面に突っ込む形となってしまった長太郎は、顔を上げると犬を睨みつける。
「くそっ、この野郎ッ!」
「長太郎!」
と、和美がみんなと共にグラウンドへと駆けつけてきた。
「あらあら、普段はヒーローを気取ってるくせに、野良ちゃん相手にずいぶん苦戦しているみたいじゃない?」
「うるせぇ、少し手加減してただけだ」
「そう、じゃあ次は本気で捕まえてよね――この中じゃ、あんたが1番動けるんだからさ」
「へっ、まかせとけ!」
長太郎はそういうと1歩前へ出る。
仲間達はそれをサポートするように周囲に展開し、犬を逃がさないようにジリジリと包囲を狭めていく。
「――いまよ!」
と、和美が指示を飛ばした。
その声を聞いて、橘班の面々は一斉に犬へと飛び掛る。
四方から飛び掛る人の前に、犬の逃げ場はないと思われた。
だがしかし、この犬は彼らの想像を上回る動きを見せた。
「なっ、なにィッ!?」
垂直に高く飛び上がった犬を見上げ、長太郎が声を裏返す。
そしてその犬は、飛び掛ってきた者たちの顔や頭を次々と踏み台にして危機を逃れると、校内のどこかへと姿を消した。
「いたたっ……どうやら僕たちは敵を甘く見ていたようですね」
犬に踏まれた頭を擦りながら、想一がつぶやく。
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