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月の灯りが仄かに室内を照らしていた。
夜の教室には、昼間とは異なる独特の空気がある。普段生活している場所の纏う異質が、不安と共に一種の高揚感を和美に抱かせていた。
しかし、そんな感慨を抱いているのは和美だけのようだった。
隣に腰かける少年を見やる。
壁を背にして膝を抱える善司は、綺麗な琥珀色の瞳を、小動物のようにきょろきょろと動かしている。色白の頬は桜色に染まり、なんとも落ち着かない様子だった。
さらに善司の向こう側では真帆が自前のノートパソコンをいじっている。薄暗い空間にディスプレイの明かりが眩しい。小さな体でノートパソコン抱えるようにしている真帆の姿は、和美から見ても可愛らしいものだった。
真帆は善司に密着するようにして座っている。いつも装着している白いヘッドホンからは、大音量の音楽が漏れ出していた。
あのヘッドホンは、真帆の自己閉鎖の象徴だ。
なのに、善司と話すときだけはその象徴を外すものだから、和美にしてみれば面白くない。――何に対して面白くないのかはできるだけ考えないようにしているが。
「善司、大丈夫?」
抑揚のない声が静かに大気を揺らした。
見ると、さっそく真帆がヘッドホンを外していた。ヘッドホンを首に掛け、愛らしく小首を傾げる。
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