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無表情でそんな仕草をするのは反則だと思った。
「う、うん。大丈夫だよ」
案の定、赤面した善司が慌てている。
「そう? アメ、食べる?」
真帆が棒付きの飴を差し出すと、善司は恐縮しながらもそれを受け取った。
なんともほのぼのとした光景に和美は嘆息する。こんなことで気を抜いている場合ではないというのに。
「和美も、いる?」
「え?」
予想外に聞こえた自身の名前に、和美は驚いて横を見た。自分に向けて、突きつけるように飴が差し出されている。
呆気にとられていると、真帆が、ずいと飴をさらに眼前に突き出してきた。このままでは目を突かれてしまうと焦りつつ、その飴を受け取った。
「あ、ありがとう」
「ん……」
和美の礼に短く応えると、真帆は再びヘッドホンを装着して、今度は自分の分の飴を小さな口にくわえる。
沈黙が降りた。薄暗い部屋に響くのは真帆が叩くキーボードの音だけだ。
しばらくして、
「あ……」
真帆が間の抜けた声をもらした。
「ど、どうしたの?」
嫌な予感がした和美は腰を上げて、真帆のノートパソコンを覗き込んだ。自然と善司に覆いかぶさるような体勢になってしまい、内心焦ったが務めて平静を装った。善司の顔が更に赤くなったことには見て見ぬふりをする。
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