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―――ここは、どこだ。
森があった。地面があった。深い夜の闇に呑み込まれた。
上を見上げると、鳥一羽飛んでいない黒い空があった。森の奥を見ても、木しかない。
こんなに暗く、不気味な場所に一人いるこの状況は、不思議と怖くはなかった。
ああ、これは夢なんだ。
なんて面白味のない夢なんだろう。
…一人なんだな。
“夢”でも“現実”でも。
何故だか、笑いが込み上げる。夢なら何をやってもいいから楽だと思うと、益々笑えてきた。
その時、微かな波の音が聞こえた。こんな深い森の近くに、海があるのか。
そういえば、さっきから潮の香りが鼻を擽る。
自分はあまり海が好きではないが、まあいい。
どうせ夢なのだから、何をしたって同じだろう。
一歩一歩、足下に注意を払いながら進む。
自分の足音だけが、静寂の森の中に聞こえる。
ついさっきの笑いはもう消え、感情を持たず歩いた。きっと何もない。そんなことを思った。
どのくらい歩いただろう。十分程度か。いや、もっとあるかもしれない。
そんなことを考えていると、突然 視界が広がった。
海があった。
どこまでも続く、果てしない海だ。水平線が見える。
そして、黄金の月があった。
空を埋め尽くすような月が、目の前にあった。
放つ光は実に優しく、美しく、海に反射している。
波打つ浜辺には、月から溢れたような結晶を思わせる砂が、左右に広がっていた。
私は、呼吸をも忘れそうになった。
そんな景色だった。
その時、遠くから自分を見つめている人に気付いた。その人は、男か女か解らないくらい、整った顔をしていた。
真っ白い服で、裸足になって海沿いを歩いていたようだった。
私が歩み寄っても、動じなかった。月の光でよく見えなかったが、どうやら少年のようだ。自分と同い年か、それより上だろう。
髮色は、優しく輝く 銀だった。
「君も、一人かい?」
そう言った彼の瞳は、深く青い 海を思わせる
きれいな
綺麗な
瑠璃色であった
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