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「イテテテテ……いきなり何するんですか!」
「なっ!?」
「んだとぉ?!」
立ち上がった厳正を見て、アッシュとガリアは驚愕の表情を浮かべる。
(アッシュの攻撃は間違いなくあのガキの腹部に当たったはず……なのになぜだ?!)
(ありえねぇ……俺の一撃を喰らって何ともねぇだと!?)
あまりの動揺に一歩も動けずにいる2人に試験監督達の1人が尋ねる。
「アッシュ・グランツ。ガリア・クリム。この騒ぎは君達が起こしたのかね!?」
「え、あ、そ、それは―――」
質問の返答に困ったアッシュはガリアに視線を向けた。
アッシュからのサインに気付き、ガリアが質問に答え始める。
「語弊ですよ試験監督殿。我々2人は大貴族としての職務をまっとうしただけなんです。」
「大貴族としての職務?」
「えぇ。そこのガ―――少年が、己の罪を認めようとしないのですよ。」
「罪?この少年が、一体何をしたのだね。」
「何って……そんなの賄賂に決まっているでしょう?」
「賄賂?」
「その通りです。賄賂でもない限り、実技試験も筆記試験も満点なんて不可能。それは歴史に名を連ねる偉人達が証明しています。だから賄賂を渡したことを認めるよう進言したんですが……その少年は僕らの言葉に耳を傾けず、我々に暴力を振るおうとしたのですよ。それで[仕方なく]友人であるアッシュ・グランツが少年に力を使ったのですよ。そうでしたねアッシュ?」
「あ、あぁ!その通りだ!」
ガリアに同意を求められたアッシュはそう答えた。
「つまり、悪いのはこの少年で、あなた方はあくまでも正当防衛を主張するわけですね?」
「はい。大体こんな小さな子供がこの試験を受けること自体が間違いなんですよ。3ヶ月前にもこの少年と同い年くらいの少女が試験を2つとも通りましたが、あれもどうせ賄賂か何かでしょ。」
ガリアの言葉を厳正は聞き逃さない。
聞いた途端厳正の目が、年相応の透き通ったものから、目が合った者を震え上がらせる程の凄まじい殺気を孕んだモノに変わる。
それに気付かないまま、ガリアは厳正という爆弾が起爆する為のキーワードを口にする。
「その少女はスカイハート家の生き残り……いや、[死にぞこない]だ。加えて親が遺した遺産を賄賂に使ってまで試験に通ろうとする、こういう奴らのことを[無駄な命]って言うんですよ。」
「ふざけるな。」
会場の雰囲気が一気に重くなった。
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