第一章 少年魔導師

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フェイトがイリーナの車に乗り込んだ頃、厳正を始め、第一部隊に入隊することが決まった60名は、専用のバスに乗っていた。 バスの中では、厳正に対する噂が飛び交っていた。 9歳という異例の年齢での合格 両試験ともトップ通過 しかもその全てが満点 不正がバレて暴れていた、力自慢のアッシュをいとも簡単に鎮圧 加えて、自分達が入隊する部隊の隊長であるベルデと親しく話す姿 これだけの非現実的な出来事があって、噂が出来ない方が無理があった。 「本当に何者なんだよあの子。」 「やっぱり貴族の隠し子とか?」 「それはないだろー。」 「でも、もしクラッチフィールド家の隠し子だったとしたら、今回の試験にクラッチフィールド家の人間がいなかったのも納得じゃない?」 「確かに…それなら納得がいくよな。」 『うんうん。』 ある女性の案に、その他の合格者達は、首を縦に振った。 (マスター!いいのですか!?あんなことを言われて……!!) 彼らの会話を聞いて耐えかねた<ラグナロク>は、マスターである厳正に、《念話》でそう質問した。 (「言いたい奴には言わせておけ」) (えっ?) (僕が時子ばあちゃんから教わった、こういう状況への対処法だよ。僕はあの人たちの言ってることなんて、まったく気にしてないんだよ。だから、<ラグナロク>が怒ることはないんだよ。) (そ、そうですか……) <ラグナロク>がそう言うと、厳正は目を閉じて寝息を立て始めた。 ************************************** まったく同じころ、バスの少し手前を走る車には、ベルデが後部座席に座っていた。 「アホたれどもが…儂の家に隠し子なんぞおらんわ。」 ベルデは車の助手席にある受信機から発せられる、試験合格者達の声を聴いてそう言った。 「隊長…本当にこのような者達を、我々の部隊に入れるのですか?」 運転手を務めている、入って2年目の魔導師が、ベルデにそう質問した。 「そらそうじゃろ。一応儂が直々に指名してもうたんじゃからのぅ。」 その答えに、運転手の魔導師は、短く「そうですか」と返した。 (まぁこの様子じゃと、最初の1ヶ月で半分以下になるかもしれんのぅ……) 少々落胆する運転手を余所に、ベルデはそんなことを考えていた。 ベルデの妖しい笑みと、飛び交う噂を乗せて、一同を乗せた車とバスは、第一部隊の隊舎へと向かう。 **************************************
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