第二章 理想と現実

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誰もが厳正の敗北を悟った直後、厳正は動いた。 自分の胸の中央に向けて繰り出される突きを、ほんの少し左に動くことで回避した。 そして、あらかじめ持ち直しておいた刀を、青年の右手首に向けて振り上げた。 そう、あらかじめ、刃ではなく峰が敵に当たるように持ち直した刀を。 落としていた腰と、全身のバネをフル稼働したすさまじい威力で。 「―――っ!!!!」 厳正の一撃は青年の右手首にクリーンヒットし、青年は右手首に走る激痛で、その表情をゆがめた。 そして激痛に伴い、移動速度が落ちた青年の後頭部に、厳正はトドメの一撃を叩き込んだ。 「がっ!!」 青年は短く息を吐き出した。 直後、青年の意識は刈り取られた。 {敵の意識レベル低下、気絶を確認しました。} <ラグナロク>がそう言うと、厳正は両手握っていた刀を右手一本に持ち替え、構えを崩してから、刀に変形していた<ラグナロク>を、指輪の形に戻した。 その様子を見て、ベルデは笑っていた。 (本物じゃ……この子は、本物の天才じゃ…!!いくらジオルグの元で1ヶ月間修行した言うても、あんな動きは、そうそう出来るようにはならへん…!!) ベルデが心の中で、興奮を隠さずに露わにしている時、その他大勢の人間は、誰も何も喋らなかった。 そんな沈黙の中、魔術師の1人が叫ぶ。 「し、試合終了…しょ、勝者……大神…厳正。」 魔術師の1人がそう言うと、今さっき部屋に入って来た女性が、拍手をし始めた。 「まだ子供なのにその動き、素晴らしいわ!」 『!!!!!!!!!!!!』 女性の登場に、ベルデと厳正を除く、意識のある全員が姿勢を正し、女性に向けて敬礼した。 「おう、来たか。案外遅かったのぅ。」 ベルデが女性にそう言うと、女性が返す。 「途中であの子に会ってね。雑談しながら来たら遅くなっちゃったのよ。」 女性はそう言うと、入口付近にいるフェイトを見た。 「なるほど…なら、しゃーないか。」 ベルデは、フェイトを見るなりそう言って納得した。 一方、厳正はというと、女性の登場に、激しく動揺していた。 「あ、あなたは…!!病院の3階の休憩室で会ったバラの花束の…!!!!!」 「バラの花束??」 厳正の言葉に、ベルデは首を傾げた。
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