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病院を退院した純夏は普通の小学五年生として生活を送った。
蝶々にも、ごはんの匂いにも、もう何も感じなくなったが。
さすがの純夏でも初潮を迎える前の幼い少女に、こんな身体の変化に戸惑わない訳がなかった。
少女だってたぶん少しは考えたはずだ。怖い、悲しい、おかしい、
助けて
って。
そんなある日の事、少女純夏に幸運の女神様が微笑んだ。これは、神とやらから授けられた才能だと気づく事が出来たのだから。
父方の祖母が亡くなったのだ。
当然、純夏も葬式とやらに参加する事になる。
純夏は祖母が大好きだったはずだ。
私の家は母も父も共働きで純夏はほぼ福岡で祖母に育てられたも同然だった。
葬式には沢山の親族やら親戚やら知り合いとやらが押し掛けた。
祖母は人がいい人だったものだから葬式はずいぶん盛り上がっていた。
私も祖母から受けた恩を忘れてはいなかった。たぶん、私は祖母の愛情で…
家に帰ればいつも祖母が私を迎えた。
「おかえりなさい」
といわれるより
「ただいま。おばあちゃん。」
って、言う方が好きだったはず。当時はな。
葬式が終わる頃には中途半端な生ぬるい雨が降っていた。
きめ細かな私の肌には涙は滑らなかったけど、空から落ちてくる生暖かいそれが私の頬を濡らした。
家の外には、悲痛な声と、まっくろな塊。
いつのまにか母が差し出した傘を片手に、じっと目を離さず、誰かが
「目を離すな」
って言ってるようだったから、じーっと。ただ、じーっと。
見つめていた。
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