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玲二が家を出てしばらくして、私はシャワーを浴び直し、それなりの格好をして玲二に宛てた紙切れを残し家を出た。
大人になってから、この事に向き合わなかった訳ではない。
「本当に私に心などあるのだろうか。」
才能を失う事。
贈り物を失う事。
それはこの答えが出る事。
部屋の扉を開けた時、一筋の光がすぅっと目の中に入ってきた。
あの時の太陽の光。
あの頃と少し季節は違うのに。
九月の空は私の心と対照的だった。
私は少し高いヒールの靴を時折耳につく高い音を鳴らしながら歩いた。
息など切れなかった。変な汗も出ない。走り出したくもならない。
いつの日にも同じ空の青。心が壊れた私が誰かと見た空の青。
もう何処に行くかなど忘れたかった。
なんだかこの奇妙な心地よさを、私はよく大嫌いな夏と共に感じていた気がするのだ。
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