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 月夜に花が散る。赤い血が大地を覆う。たくさん命が散った。  僕はこの日、人間を辞めた。  月影夜空は小学校三年生に上がる年に、両親と共に海外へ渡った。まだあどけなさの残る夜空は、幼馴染の少女と泣く泣く別れて、日本を発ったことになるのだろう。  現在、月影一家はイギリス、ロンドンで生活している。世界を転々としてきた夜空にとっては、最早自分たちがこれまで行った国の数も忘れてしまっている。それほどに、彼らは世界を飛び回っていた。  夜空の父、月影星空。夜空の母、月影夜美。その二人の間に生まれたのが月影夜空である。二人の名前を合わせて名づけられた名前に、夜空はある種の喜びを感じていた。 「お父さんとお母さんの息子」  という、誇りが自分の名前に現れていると思っていたからだ。  そんな夜空の両親、星空と夜美の職業は特殊だった。 彼らの仕事は人の形をした生き物を殺すことだ。  人の生き血を啜る鬼。血を吸う鬼。吸血鬼。  星空と夜美の仕事は吸血鬼を殺すこと。そのために、彼らは世界を飛び回っていたのだ。  だが、そのことを夜空は知らない。自分の両親が命をかけて命を奪っていることを知らない。当然だ。なぜなら、彼の両親が頑なに隠し通していたからだ。  あの日までは。  夜空たちが日本を離れ――吸血鬼を殺して回って、早4年が経過していた。本来なら、夜空は中学校に通っている年齢だ。とは言っても、学校に通っていなかったわけではない。両親が吸血鬼を殺すために、各地を転々としていたように、夜空もまた、それにともない学校を転校していったのだ。そのおかげか、夜空は話すだけならばかなり
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