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「……戦わないんじゃなかったんですか?」
キャンベルの忠告どおりに頭を低くしながら夜空は訊いた。
「……そのつもりだったが、状況が状況だ。スピードは向こうの方が上だ。このままだと追いつかれる」
左手でハンドル、右手に銃を握り、起用に運転しながら、キャンベルは答えた。
「生憎、銀の弾丸は切らしてしまっているから、鉛のものしかないけれど、タイヤを打ち抜けば足止めにはなる」
言いつつ、さらに発砲する。だが、その弾丸は後続車をかすめもしない。
「く、運転しながらだと狙いにくい」
「僕が撃ちます」
そう言って、アンダーボックスの銃に手を伸ばすが、キャンベルに止められる。
「駄目だ。素人が簡単に扱えるものじゃないんだ。それに、銃に触れれば、君はもう日常に戻れなくなるんだぞ」
「…………」
何をいまさらこんなことを言っているか。キャンベルは自分を責めたくなった。巻き込んだのは自分じゃないか。夜空の両親は頑なに隠していたのに、それをみすみす教えたのは自分だ。本当なら、キャンベルは夜空を訪ねるべきではなかったのだ。それにいまさら気付いたところで遅いのだけれど。おそらく、夜空はそれを理解しているのだろう。もう、日常には戻れないことを、内心分かっていたのだ。だからこそ、銃に手を伸ばしたのだ。
「あなたが僕を訪ねた時点で、僕は日常に戻れないと理解しました。だから、これからは僕も吸血鬼と戦わないといけなくなった」
その言葉はまるで、「あなたの所為ですよ」と遠まわしに言っているようだった。
「ですから、僕が撃ちます。あなたは僕を巻き込んだ。お父さんとお母さんが僕を巻き込むまいとしていたのに、あなたが僕を巻き込んだ。もう、遅いんです」
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