003

3/11
前へ
/25ページ
次へ
生活してもらう。もちろん、学校は今まで通りに通えるよ。心配は要らない。君はちゃんと私が守ってあげるからね」 「…………」  聖職者の笑顔は信用できないな、と夜空は理解した。目の前の男はいったいどんな言葉を並べて、人に説法を聞かせてきたのだろう。そんなことを考えると、自分はこの男と一緒にいるわけにはいかないんだと思った。 「…………」  これまで、各国を渡り、いろんな人間を見てきた夜空にとって、人を観察することは癖のようになっていた。それは最早特技だ。集団から孤立しないための能力ではあったけれど、その眼は大人の本音を見抜けるほどだ。つまり、夜空は大人を信用しないように心がけている。口では信用しても、心では常に疑っている。自分が損をしないように。  それでも、夜空はまだ子供だった。大人の権力にはどうしても適わない。 「……分かりました」  この状況では、首を縦に振るしか選択肢はなかった。 「おいおい、何勝手に話を進めてんだよ」  奥から、不意にそんな声が聞こえてきた。 「勝手に話を進めているわけではありませんが。これは貴女には関係のないことですよ、ミス・鑚崎」 「ふん」  鑚崎と呼ばれたその人物は鼻を鳴らす。 「関係ないこたねえだろ? 星空と夜美の息子ってことはあたしにも関係大有りだろ?」 「いい加減にしてください。教会の人間ではない貴女は我々の事情には無関係なのですよ」 「んなこたあ知るか。あたしはあたしの思うとおりに生きるんだよ」 「……!!」  不意に背中に気配を感じて、夜空は振り返ろうとしたが、それは何かによって阻止された。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加