一、ロビン・ウォルタナの後悔

5/9
前へ
/48ページ
次へ
 女性の中の一人、僕と同じ銀髪の女と目が合い──瞬間、煮沸した感情が腹の底に湧き、一気に脳髄まで駆け上がってきた。  頭蓋が熱い。    呼吸が乱れる。      全身がざわめく。  この感情が『憤怒』だと判断するのに時間は掛からなかった。否、この怒りを忘れるわけがない。  何故ならあの銀髪の女は、僕が殺したいと願っている女だったのだから。  煮え滾る感情が捲し立てるように頭蓋まで押し寄せ、僕は、次の瞬間には女の懐に飛び込んでいた。人垣のバリケードを押し退け、女の名前を叫びながら。  しかし、振り上げた拳は届かない。  その場にいた女の仲間に取り押さえられ、地に伏せられたのだ。  そんな僕の姿を見て、銀髪の女はまるで興味がなさそうに鼻で笑い、捨て台詞を吐いて酒場から消えて行く。 「──ふん。宴は終わりだ。全員牢へ戻れ」   なす術もなく独房のような部屋にぶち込まれたのは、そのすぐ後だ。    ◇・◇・◇  側頭部が痛い。  薄い布切れ一枚と台座があるだけの狭い部屋に投げ込まれた際、床や壁に頭をぶつけてしまったらしい。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加