四、火焔

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 そんな存在に対し、たかが人間ごときが、人間だった者ごときが立ち向かうなど〈この地〉に存在するどんな歴史書にも預言書にも書かれていない事だろう。    戦乙女は鍛え上げられた屈強な戦士だ。    だが、  それが男にとって尻込みをする理由にはならない。 もはや人間という括りから大きく外れた者となった男は、男たちは、〈この地〉において誰よりも自由で何ものにも縛られず、そして比類なき存在だ。  割れる地を踏みしめ、上から覆い被さってくる圧力を押し返しながら、男は共に幽閉されていた仲間の名を叫んだ。 「行け! ロビン!!」  直後、男の横を銀髪の少年が駆け抜けた。  それを見た戦乙女が叩き付けた剣を浮かせ、少年を追いかけようと地面を強く蹴り出した────のだが、大剣の男が瞬時に回り込み、道を阻む。  凛とした彼女の表情が僅かに歪む。歪むといっても片眉が動く程度ではあるが。  しかしそれでも何か言いた気である事はおよそ読み取れる。 「不満でも?」  促すが彼女は何も答えなかった。
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