54人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「それに、そもそもこの組織自体、この手の事件のために予算使ってるんです。岸田さんはここに来るまでずっと横浜一筋でしたよね」
「ああ、新港署だった」
「なら、10年前の新宿事件は知らないですよね」
「噂くらいは聞いてるが。何でも恐竜みたいなのが街中を歩き回ってたとか、どうせ根も葉もない出鱈目なんだろうけど」
「がしかし、これがマジだったんですよね……」
そう言って翔は窓のほうに目を向け、今日もせわしなく動き続ける街並みを見つめ始めた。
翔が言っている新宿事件とは、10年前(2015年)に起きた前例が全くない、後から聞いた人物からすれば非現実なものであった。
それは夏のある日、誰もがいつもと同じ生活を営もうとしたいたいつもの街に怪物が突然暴れまわり始めたことから始まった。
その後、"魔王"を名乗る存在まで現れ、それら侵略が本格的に開始されると、こちら側の戦力では歯が立たず、侵略の犠牲になるものが後を絶たなかった。
当時、刑事部長だった風見はこの非常事態にかなり苦い想いを感じていた。
だが、その幕切れは意外にもあっけないものだった。
たった数人の少年少女によって封印されたからだ。
その結果、ひとまずの危機は去ったが東京の平和を守る立場としてはかなり苦い経験であった。
そして、二度と新宿事件のような悲劇を繰り返さないために設立されたのが、「事件を火種のうちに解決する組織」である特務公安庁なのである。
また、特務公安庁のオフィスが霞ヶ関ではなく新宿にあるのは、再び"魔王"が現れたときに真っ先に対応するためでもある。
「本部長、あの事件の後は2週間くらい寝られなかったらしいっすよ」
「それくらいヤバかった、ってわけだな」
「そりゃぁもう、後で取材がドカスカ来たうえに、東京マラソンに間に合わせるとかって一時期新宿が工場フェンスだらけになりましたからね」
「確かに、東京の顔だからな」
「そこ、聞いてますかぁ?」
翔の話に思わず岸田が苦笑していると、梶間が声を突き刺してきた。
最初のコメントを投稿しよう!