『夏の匂い』

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ゆうだち、と 呟きバスを待つ人の 爪先をふとよぎりつつ 西から迫る雨雲の 影さしせまる夏の道 そこに海など見えはせず そこに風など聴こえない ただゆうわりと思い出す ぬるい潮騒、遠い声 永遠までの帰り道 はるけき道をバスはいま ただのひとりも乗せぬまま 陽炎のなか進みくる 近すぎてもう掴めない 遠すぎてもう掴めない くらぐらと影落とす雲 見上げて思う夕まぐれ アスファルトにも染み込んだ 暗い匂いを嗅げばつと バス待つ人の白々い 頬をゆくひとつめの雨粒
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