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「ねぇ陽菜? あんた何か変な事に巻き込まれたりしてないわよね?」
母は作っていたカレーの味見をしていたらしく、小皿を手にしながら眉をひそめる。そのすぐ目の前にはグツグツと音を立てた鍋があり、人参やじゃがいもが顔を出しては引っ込めるを繰り返していた。
その一つ一つがまるで、人間の頭のようでに私を覗き見ているかのようだった。
「えっ!? な、何でそんな事聞くの?」
突然の問いかけに、私は少しどもりながらも努めて明るい声を発した。だが、体は正直で、危うくお茶の入ったカップを落としそうになる。
そしてふと、脳裏に白く濁った子猫の瞳の映像が蘇った。生気を失い、もう光を取り戻すこともなく、空をただただ見続けるあの目だった。
あの出来事から間も無くして私は退院した。病院では悪質な悪戯として処理されただけだったのだが、私にはそこに秘められた意味がぼんやりと分かった気がしたのだ。
今までにも感じていた沸々とした違和感が、ここにきて徐々に現実として表面化し始めたのだと。
そして、それを実行する〝誰か〟がいるのだと……。
「最近、病気で倒れたり色々とあったから、あんたを心配させたくなくて言わなかったんだけどね……」
母は迷っているのか、視線を漂わせながら口元に手を当てる。
嫌な予感がした。
私の知らないところで、何かが起きているのかという気味の悪い予感が。
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