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コーヒーを置き、家のドアを開ける。
「はい、えと…」
ドアを開けたその先に、大きな黒い傘が見えた。その傘はゆっくりと動き、傘を持つ人物を現した。
「どうも、自分はこういう者です」
その人物は、黒いスーツの胸ポケットから名刺を差し出した。手を伸ばすと、傘から垂れる雨水が、私の手と名刺を濡らした。
「嘉山 徹…探偵…さん?」
名刺には、私立探偵の文字と、雨に濡れた名前が写し出されていた。
嘉山は驚きを隠せずにいる私に、笑って説明してくれた。
「はは、東條駿…彼は恐らく、何者かに殺されました。それはあなたもご存知ですね?」
無言でうなずくと、嘉山は話を続けた。
「しかし警察は、証拠を提示しなければ動いてくれない…違いますか?」
嘉山の気取った態度と話し方は少し気になったが、流石は探偵。明察である。
「その通りです…」
「ならば自分があなたに協力しましょう、そうですね…成功報酬は」
「すいません、私…お金を出してまで事件を解決したいって、思ってないんです」
だって私は…
「あああ!!ちょっと待って下さい!」
私がドアを閉めようとすると、嘉山はそれを必死に止めた。傘が至るところにぶつかり、雨水が拡散した。どうやら嘉山は気取りすぎたようだ。
「ごめんなさい…少し気取りすぎたみたいですね、いや~一度言ってみたかったんですよ。いやはや無礼の極み…報酬は頂きません。この事件を解決することで名も上がりましょう…それが成功報酬ですね」
「そういうことなら、お願いいたします」
「え~と…三千円ほど頂けますか?」
「なら結構です」
「あああお待ちを!」
再び嘉山は必死にドアを止めた。
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