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「ねぇ…私思うの…」 外を覆う雨の音と、車のワイパーの音に遮られながら、凛子の小さな声が、助手席から聞こえた。 返事の代わりに、無言で彼女を見ると、彼女は雨で靄がかった窓を見つめていた。 前を向き、返事を返そうとしたが、彼女は僕の返事を待ってはくれなかった。 「駿は…誰かに殺されたの…だっておかしいじゃない、駿が溺れ死ぬ訳ないじゃない…それにあの頭の傷、警察の人は川に流されて岩か何かにぶつけた傷だとか言ってたけど…」 凛子はそこで言葉を止めた。確かに、駿が何故事故死と判断されたのか、僕には分からない。きっと、殺人と認めるのがめんどくさかったのだろう。 いや、そんなことはもはやどうでもいい。僕は今、確かに凛子とふたりきり、どういった経緯があったにせよ、もう彼女を僕から奪っていく輩はどこにもいない。 でも何故だろう。何故僕は、彼女とふたりきりになれたのに、気持ちを伝えられないのだろう。昔からその機会は星の数ほどあった。 なのに「好きです」この短くて簡単な言葉を…彼女に伝えることは出来なかった。 いつしか彼女の家の前に着き、車は止まった。そして、彼女は僕の車から出ていこうとした。不謹慎だが、僕は彼女を引き留めて、食事に誘おうとした。 しかし彼女の目に映る涙を見たとき、僕はまた心苦しくなった。彼女はまだ、駿を想っているのだ。きっとあの涙の先に霞んで映るのは僕ではなく、駿なのだ。 バタン、とドアが閉まり、彼女は僕のもとから離れていった。ため息を吐き、車を発進させる。そしてまた、僕と凛子の距離は、遠ざかっていった。
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