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夏場に体調を崩し、登板数が稼げなかったのも痛かった。 長引く低迷で、鷹見を拾ってくれた監督も更迭の危機にある。 おまけに、売り出し中の正捕手は、鷹見のウィニングショットをまともに捕れないときている。 最下位がほぼ決まり、来期に向けてチームが若手を試そうとしているこの時期。 事実上この登板が、鷹見に与えられた最後のチャンスなのだった。 あの紙切れ。 自分のデスクの引き出しに仕舞い込んだ書類のことを、鷹見は思い出す。 まだ提出はしていない。 どうするか決められないのだ。 再起が叶えば、恵子を迎えに行きたい気持ちがある。 復活してすっぱり別れようという思いもまた。 いずれにせよ、ここを乗り越えられなければ何も終わらないし、始まらない。 アジアの他の国々への移籍――都落ちしてまで野球を続けるのはプライドが許さない。 球団職員として雇ってもらえるほど人柄を評価されているわけでもない。 さりとて他の仕事が自分に出来るとは思えなかった。 結局鷹見はまだ降板させられずに済んだ。 次の投手がまだ準備できていないのか、もう少し鷹見に任せようという判断なのか、それは判らない。 あとひとり。 あとワンアウト。 判っているのは、それで鷹見の運命が決まるということだけだった。
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