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プロ入りして数年。かつての甲子園のスターは、すでに一流打者の雰囲気を身に纏いつつあった。
まだ二十かそこら。幼さの残る顔を、鷹見は睨み付ける。
凡退してくれよ。
視線に願いを込めた。
お前には明日がある。
明後日も。その先も。
俺にはもうないかも知れない、未来ってやつが。
六番打者が再び打席に入った。
鷹見は一つ首を振って、捕手のサインを覗き込む。
甲子園のスター。
20年前は鷹見もそうだった。
野球についての鷹見のもっとも古い記憶は、小学校の校舎の壁だ。
地域の野球チーム入っていた兄の練習を観に行った小学三年生の鷹見は、まだチームに入れてもらえず、兄の練習が終わるまで壁を相手にキャッチボールを繰り返すのが常だった。
グローブは左ききだった兄のお下がりで、チームに入れる年齢に達するころには、鷹見は右打ち左投げになっていた。
小中と、鷹見はチーム一の選手であり続けた。
多少わがままを言ったところで、鷹見をレギュラーから外すことはできない。
勝てなくなってしまうからだ。
そしてお山の大将のまま、鷹見は高校に進学した。
県下の強豪校には流石に彼を上回る選手がいたが、鷹見の余裕は消えなかった。
体が出来て、少し経験を積めば彼らを抜かせることが判っていたからだ。
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