3

4/6
前へ
/30ページ
次へ
プロ入りして数年。かつての甲子園のスターは、すでに一流打者の雰囲気を身に纏いつつあった。 まだ二十かそこら。幼さの残る顔を、鷹見は睨み付ける。 凡退してくれよ。 視線に願いを込めた。 お前には明日がある。 明後日も。その先も。 俺にはもうないかも知れない、未来ってやつが。 六番打者が再び打席に入った。 鷹見は一つ首を振って、捕手のサインを覗き込む。 甲子園のスター。 20年前は鷹見もそうだった。 野球についての鷹見のもっとも古い記憶は、小学校の校舎の壁だ。 地域の野球チーム入っていた兄の練習を観に行った小学三年生の鷹見は、まだチームに入れてもらえず、兄の練習が終わるまで壁を相手にキャッチボールを繰り返すのが常だった。 グローブは左ききだった兄のお下がりで、チームに入れる年齢に達するころには、鷹見は右打ち左投げになっていた。 小中と、鷹見はチーム一の選手であり続けた。 多少わがままを言ったところで、鷹見をレギュラーから外すことはできない。 勝てなくなってしまうからだ。 そしてお山の大将のまま、鷹見は高校に進学した。 県下の強豪校には流石に彼を上回る選手がいたが、鷹見の余裕は消えなかった。 体が出来て、少し経験を積めば彼らを抜かせることが判っていたからだ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加