4

3/6
前へ
/30ページ
次へ
捕手が慌てて駆け寄ってきた。 「勘弁して下さいよ鷹見さん」 怒りに顔を赤らめている。 強引にスライダーを投げたこと。 内の厳しいところを狙いすぎたせいでボールの軌道と打者が重なり、見えにくくなったこと。 そういったことを並べ立てて鷹見を非難していたが、自分の技術のなさを誤魔化す為の言い訳にすぎない。 お前さえしっかりしてりゃあ俺はもっと勝てたんだ。 そう怒鳴りつけてやりたい衝動を抑えるのは、ピッチングよりも骨が折れた。 「とにかく、もうストライクはいりませんからね」 捕手が言った。 「ケガしないようなとこにだけ投げて下さいよ。歩かせたっていいんだから」 鷹見は一回りも年の離れたチームメイトを見据え、口を開いた。 「リサって言ったっけか」 「は?」 予想だにしていなかったであろう台詞に、捕手は世にも間抜けな表情で応えた。 「『ビフロスト』のコさ」 『ビフロスト』とは、捕手が足しげく通うクラブの名だ。 「――ありゃあやめた方がいいぜ」 「こんな時に何言って・・・」 「オトコがいるんだ」遮って言った。「ミュージシャンのタマゴだとさ」 「――え?」 喰い付いた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加