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捕手が慌てて駆け寄ってきた。
「勘弁して下さいよ鷹見さん」
怒りに顔を赤らめている。
強引にスライダーを投げたこと。
内の厳しいところを狙いすぎたせいでボールの軌道と打者が重なり、見えにくくなったこと。
そういったことを並べ立てて鷹見を非難していたが、自分の技術のなさを誤魔化す為の言い訳にすぎない。
お前さえしっかりしてりゃあ俺はもっと勝てたんだ。
そう怒鳴りつけてやりたい衝動を抑えるのは、ピッチングよりも骨が折れた。
「とにかく、もうストライクはいりませんからね」
捕手が言った。
「ケガしないようなとこにだけ投げて下さいよ。歩かせたっていいんだから」
鷹見は一回りも年の離れたチームメイトを見据え、口を開いた。
「リサって言ったっけか」
「は?」
予想だにしていなかったであろう台詞に、捕手は世にも間抜けな表情で応えた。
「『ビフロスト』のコさ」
『ビフロスト』とは、捕手が足しげく通うクラブの名だ。
「――ありゃあやめた方がいいぜ」
「こんな時に何言って・・・」
「オトコがいるんだ」遮って言った。「ミュージシャンのタマゴだとさ」
「――え?」
喰い付いた。
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