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転落は緩やかだった。 しかし、それは幸運を意味しない。 成績が下降局面に入っても言い訳ができたからだ。 今年はたまたま不調だったから。ケガをしたから。 貴重な左腕であることも作用した。 先発でボロが出始めると中継ぎに変わった。 そこでも打たれ始めると、左のワンポイントとして使われた。 それもダメとなると、球筋に慣れられていない別リーグへ――。 そうやって、流されるままに月日だけを重ねていったのだ。 鷹見には才能があった。 それは間違ない。 だが、プロには天才などゴロゴロいる。 例え鷹見にアドバンテージがあったにせよ、原石を常にぶつけ合い、磨いている連中に敵わなくなるのは自然なことだった。 結局これまで、鷹見は戦ったことなどなかった。 多分怖かったのだ。 本気でやっても負けてしまうかも知れない戦いに身を投じるのが。 自分がバカにしてきたやつらに、なけなしの自尊心を打ち砕かれるのが。 戦わなければ、負けることもない。 言い訳もできる。
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