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二球目をリリースした直後に心臓が跳ねた。
内角高目に外すはずのストレートが甘いコースに行ってしまったのだ。
五番がフルスイングで迎え撃つ。
弾かれたように振り返り打球の行方を見送った鷹見の視線の先で、ボールはスタンドに消えた。
ポールのわずかに外、ファールゾーンへ。
思わずため息が漏れた。
噴き出した汗でアンダーシャツが体に貼り付く。
次のサインが出た。
捕手の要求は内角だった。低目へのチェンジアップ。
鷹見は首を横に振った。
大卒三年目の若い捕手は、ちっともこちらの好みを覚えようとしない。
内角を使った直後だ、確かに今打者の意識は外にあるだろう。
しかし内角は一つ間違えれば一発がある。
相手が打ち損じてくれたお陰でカウントは2―0になった。
後はもうストライクはいらない。外角の臭い所を突いて行けば打ち取れるはずだ。
さらにもう一度首を振って、鷹見は外のボールになるコースにストレートを投げ込んだ。
五番打者は見送ったが、バットは出かかっていた。
術中にハマりかけている。スライダーを使う頃合だ。
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