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マンションの敷地内を、星乃は小走りに駆け廻っていた。
「かっちゃんのバカ、かっちゃんのバカ、かっちゃんのバカ!」
同じ小学校に通う男の子を、さすがに小声で罵りながら。
よりによってこんな時に――
扉の影やら車の下やらを覗きこむ度に、高めに結ったポニーテールのしっぽが揺れる。
こんな時ーそう、今日は六年生がいないのだ。修学旅行で三日間帰らないから、その間は星乃が臨時に通学班の班長となり、みんなをまとめなければならない。
それなのに、二年生のかっちゃんときたら、お気に入りのハンカチが風に飛ばされたからといって泣き喚いて動こうとしない。
それで、かっちゃんのお母さんと星乃で捜すことにしたのだが、広い敷地でハンカチ一枚を見付けるのは思った通り大変だった。
時間はどんどん過ぎてゆく。息も切れるし、何よりもお気に入りのラブラビのTシャツが汗まみれになってしまうのが、星乃には気に入らなかった。
魔法が使えればなぁ。
またかっちゃんの悪口を言ってしまいそうなので、星乃は別のことを考えることにした。
パパやママの言葉を借りれば、「ほっしー(パパやともだちは、ときどき星乃をふざけてこう呼ぶ)は夢見るオトメだからなぁ(笑)」というところだけれど、魔法使いになるのが小さいころからの星乃の夢だった。
バレエのプリマやまんが家も捨てがたいけど、なれるのなら断然魔法使いがいい。
もちろん十歳を過ぎれば、ましてや女の子なら、「現実」ってものがわかってくる。
歯の妖精なんていないかも知れない。百歩、いや百万歩ゆずって、サンタさんだって作り話かもしれない、そんな程度には。
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