1・hollyhock・hillってなんぞ?

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適正なる値段交渉はこうして終わった。 昔から言うよな。 ……正義は勝つ、と。 勝てば官軍とも言うが。 まぁ、妥当な結果と言えよう。むしろヌルすぎたくらいだ。つくづく俺は人がいい。 「ひでぇ、あんな値切り方とかマジないわ。なんか値段交渉以上にイロイロ削られた気がする……」 「気がするだけだろ」 「そりゃ結果だけ見れば、確かにオレは100円儲かったけどな!?…………なんか納得いかねー!」 納得しとけ。 「わーったよ。……今日はまぁ、これでいいや。お前には近々、また頼みたいことがあるし」 いいんかい。 つか、なんだよその頼みたいことって。 どうしてか嫌な予感を覚えざるをえない。……聞かなかったことにしてスルーしよう。そうしよう。 「現金持ち合わせないからネットマネーでいいか?」 「いいよん。毎度ありー」 よし、商談成立。 俺は自分の外部端末からネットバンクを呼び出すと、タッチパネルを操作して素早くパスワードを入力する。 あとは約束の金額を、遊馬の口座に振り込めば、それで作業は終了だ。 「ん、承認。確かに振り込まれてるね。600円!ホントに600円!」 「なにか異論が?」 「ゴザイマセン」 よしよし。 人間、素直が一番だよな? 「でも、100円でも助かるわー。今月は好きな作家さんの新刊が立て続けに出るからさ!」 ……なに? そんな理由ならもう少し妥協してやってもよかったかな、と一瞬甘い考えが浮かんだが、すぐ打ち消した。 遊馬の細い目が、いつのまにかカマボコ型だった。 新刊というのはBL本だな。……友人の趣味をとやかく言うつもりはないんだが。 「なんか今回、かなり面白そうなんだよね!読み終わったら貸すから読めよ?BL抜きにしても、あのひとの話は感動すっから!」 毎回毎回、大量に貸してくれるBL本が、遊馬なりの友情の表れだってのはわかってんだよ。 わかってるんだが。 でも──題材的に扱ってるのはラブなのに、男しかいないとはこれ如何に。 や、俺は同性愛を扱った作品も別に興味を惹かれたら抵抗なく読むけどさ。ただ、リアルでも野郎ばっかりの現状では、ちょっと……な。 俺に潤いをください。 「お手柔らかに頼むぜ?」 「おうよ。ちゃんとソフトなのにしとくから安心してくれな?」 いや、だからそういう問題じゃねーんだが。 ……てゆーかハードってなによ?
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