1・hollyhock・hillってなんぞ?

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「お前がアナザーゲートを苦手にしてるのはもうわかってるよ、コウキ。別にそれがどうこうってわけじゃない」 そう言う遊馬は、本当にそんなことは別にどうでもよさそうに見えた。 「ひとそれぞれだよな。本人が不便を感じてなきゃそれでいいとオレは思う。やりたければ好きにやればいいし、やりたくないなら、無理にやらなくてもいい。──hollyhock・hillだってな」 ……だから、俺はこいつが好きなんだ。 このバーチャルネット全盛の時代に、ゲートにダイブできない、あるいは好ましく思わないだけでも頭の固い前時代的な人間だと軽んじられることも少なくないのだから。 でも、と遊馬は俺に視線を合わせる。 「やるやらないは別として、それでも葵陵の生徒なら、hollyhock・hillのことだけはちゃんと知っておくべきだ。いらんトラブルを回避するためにも、な」 珍しく真面目な遊馬の表情は、とても嘘偽りを口にしようとしているようには見えなかった。 忠告──いや、警告するように、遊馬は言う。 「なぜならhollyhock・hillとは、この学園の生徒──特に一部のヤツにとって、もうひとつのセカイへの扉だからだ」 「……たかがオンラインゲームで、それは言い過ぎだと思うか?」 大袈裟な、と思わなかったと言えば嘘になる。表情に現れたのかもしれない。 ごまかす気分になれず曖昧に頷くと、正直者めと遊馬は笑う。 「でも、そのたかがオンラインゲームが、この葵陵の生徒に及ぼす影響はとてもゲームの域を超えているのさ。特にここ近年は、な」 「……それが、今朝の先輩の様子に繋がるのか?」 口に出してから後悔した。 真横でぐふっと邪悪な笑いが漏れた気がするが敢えてスルー。 「うんうん、やっぱ先輩が心配なんだな?」 「当たり前だ。──ただしそれ以外の感情はないぞ」 「ツンデレ乙。むはは、むしろその言い様、萌えるわっバカめ!」 「…………」 妄想ネタ御馳走様です!とまで敬礼つきで言われ、思わず右手がアホの頭に伸びかけたが、自制。 シメんのは情報を吐かせてからにしよう。そうしよう。 「よしよし、お前の先輩への愛に免じて、そこんとこ詳しく話してやんぜ。……感謝しろよ?」 やる気になったようで何よりだ。 ああ、感謝でもなんでもしてやるよ。 だから、キリキリ吐け。 ……俺の右手がまだ自制してるうちにな?
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