序・フラグはここに成立した

2/4
前へ
/78ページ
次へ
◆ 「貴様は──なんなんだ」 ぎりぎりで、間に合った。 黒衣の騎士の剣は、彼の獲物に届く寸前でしっかり固定されて、もはや1ミリも動く気配がない。 動かせないのだ。彼自身にも。 騎士の秀麗な面差しに浮かぶ感情が、驚愕から戸惑い、そして苛立ちへと変わるのが手に取るようにわかった。 「ここまでに、してくれないか」 だから俺はあくまで冷静を装って、声を作る。内心を彼に悟らせるわけにはいかない、気づかれるわけにはいかない。 得体の知れない闖入者(俺のことだ)によって必殺の一撃を止められた彼の驚きを、最大限利用するために。 背後に庇ったこいつを逃がしきるために。 無謀だとわかっている。 眼前の存在が、何者かを俺はもう理解している。 対峙する愚かさも。 目の前にいるのは当代一の実力者と、誉も高き青の総帥。 俺が背後に庇うのは、数日前に知り合ったただの知人のひとりに過ぎない。 それでも──身体は、動いてしまったあとだった。 こころが、見捨てるなと俺に言うのだ。 ちくしょう。 いまさら、あとなんかに引けるか。 「引いてくれ。……頼む。こいつはまだ、なにも知らないんだ」 まっすぐ、彼を見つめる。 すっぽり顔の半分を覆う無骨なゴーグルごしの視線など、彼に届くことなどはないとわかってはいたけれど。 ただ俺の懇願に、彼の口元が吊り上がる。炯々と戦意に燃える眼差しが、あれは自分の獲物だと言外に強く主張していた。 やっぱ、逆効果だったか。 ここで引いてくれたら、と一縷の望みをかけてたんだがなぁ。くそ。 馬に蹴られて死んじまえ、とよく知る声が脳内で再生された。黙れ腐男子。王道展開なんざくそくらえ。 ここで引いてくれよ、頼むから。 「……嫌だと言ったら?」 ああ、やっぱりそう言いますよねわかってた!野暮で済まんね、でも引けねぇわ。 内心の声が聞こえたわけでもあるまいに、黒衣の騎士の形のいい眉がぴくりと跳ねた。 強い敵意が、いまは俺に向かっている。びりびりと、肌で感じ取れそうなほどの強さで。 「──貴様が、引け」 ごめん、それ無理。なんつって☆
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加