1・hollyhock・hillってなんぞ?

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──遊馬の説明によれば当初、そのゲームは生徒から生徒へと、口コミで広がっていった、らしい。 hollyhock・hill。 まずその名前だけが、まるで都市伝説かなにかのように、ひっそりと生徒たちの間に浸透していった。 校内のサーバーのどこかに、そんな名前のバーチャルオンラインゲームへの入口が隠されていると。 そしてそれは確かに存在していたのだ。 以来、hollyhock・hillはその存在を見つけだすことができた一部の生徒の間でのみ語り継がれ、ひっそりと楽しまれ続けられていたという。 実際のところ、そのゲームを運営しているのが誰なのか、プレーヤーの誰も知らない。 ゲームがいつから配信されていたのかも。 けれど、いまとなっては、この学園でその名を知らぬものは、もはやいない。 この、陸の孤島のような場所に建てられた全寮制学園と同じ名前のオンラインゲームは、もはや名前と同じく、葵陵学園のもうひとつの『顔』だった。 「……そうなった直接のきっかけは、あるプレーヤー──俺達の何代か前の先輩のひとりが突然、奇妙なことを言い出したからさ。これはただのゲームって枠に収まらない『何か』なんかじゃなかって」 「ただのゲーム、じゃないのか?」 「ただの──いや、そこそこ面白いけど、ただそれだけのオンゲーさ、オレなんかにとってはね。でも違う奴がいる」 遊馬は皮肉たっぷりに口元を歪めた。ちらりとフェンス越しにグラウンドを一瞥し、 「……そいつらは信じてるのさ。このゲームをやって得た『モノ』が、現実世界の自分にも影響を与えてるって」 運動系アビリティなら反射神経や筋力が、学力系アビリティならば知識や記憶力が。──わずかとはいえ、向上するのだと。 ただ、ゲームを遊ぶ。 それだけで。 「……んな、アホな」 あまりの突拍子もない話に、俺はつい突っ込んじまったね。 あまりに、現実的じゃない。 なさすぎる。
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