1・hollyhock・hillってなんぞ?

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きっと否定派と肯定派の議論は平行線だったに違いない。いずれも納得させるだけの確たる証拠が出揃うまで続くだろう。 いや、証拠が出たとしても。 ひとは自分にとって都合のいいことだけを見たがり、信じたがるものだから。 だな、と遊馬はくつくつと笑い、背もたれがわりの屋上のフェンスを軋ませた。 「まだまだ、半信半疑なやつが多数だろうよ。どっかで期待しながら、でもありえない、どうせただのデマだろうってね。そんなふうに思ってる。……でも、真に受けて動いてるやつも少なからず、いるんだよ」 そいつらはヤバいよ、と遊馬はそこだけひそめた声で言った。まるで俺に見えない誰かがそこにいて、そいつに憚るように。 一気に話が生臭くなってきやがったな。 「……信じられん」 なぁ、今日はエイプリル・フールじゃなかったよな? 「信じられないなら信じなくていいさ。ただ、この場合問題なのは真実かどうかじゃない。それを本気で信じてるやつがいることなんだ」 ようやく俺は、遊馬が教室ではなく、誰も居ない屋上に俺を呼び出した真意を理解した──ような気がした。 これは確かにパブリック・スペースでするにはちょいと問題がありそうだ。 思えば朝のホームルーム前、あそこで遊馬が強引に話を打ち切ったのもあの場で核心に触れるのを避けたい意識があったのかもしれない。 「それに、いまはちょいと間が悪い。……おかしな噂が流れてっからな。しかもかなりヤバげなのが」 これ以上、かよ。 それがなんなのか、なんとなくわかる気がした。 「もしかして……最初に言ってた、校内施設利用データによって付与されるかもしれないパラメータボーナスの可能性と、レア・アビリティ入手方法……ってやつ?」 「ご名答。よく覚えてたな」 や、理解はまったくしてないぜ?すでに俺のキャパシティはオーバーフロー気味なんだ。 「覚えてるだけで上出来さ。話が早くて助かる」 ようやく本題に入れるな、と遊馬はちらりと口の端に笑みを浮かべ、俺に思わせぶりな一瞥を寄越した。 まるでテキストに仕込んだ引っ掛け問題に生徒がちゃんと気づいたか探ろうとする数学教師のように。 なんだ? なにか引っ掛かる……。 俺はまだなにか見落としてるんじゃないか? 「ん。……や、待てよ?」 やはり、なにかおかしい。
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