110人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
「ただ、いまアレを欲しがってるやつはかなり多いよ?なんか、アレがあると今回のイベント、かなり楽になるって噂だし」
……イベント、ね。
「それにしても噂、噂ってそればっかだな」
「……まぁ、公式からのヘルプやガイダンスが一切ないようなゲームだからなー。情報収集しようとしたら、噂に頼るしかないのよ」
挙げ句、その噂に躍らされて、この騒ぎか。
「……仕方ないさ。
いままで、どうやったら手に入るのかさえわからなかった貴重品が、少しの手間で手に入るかもしれないんだ。
それがなんであれ、試してみたくなるのがヒトのサガってやつだろ?」
しばらく、あの本の予約表から人の名前が途切れることはないだろうな、と遊馬はそれが決定事項であるかのように淡々と、そんな忌ま忌ましいことをのたまいやがった。
それに、まるで被せるみたいなタイミングで空々しいチャイムが鳴る。
やけに長く感じられた昼休みが、ようやく終わったのだ。
なんてこったい。
俺……メロンパン、半分しか食えなかったじゃねーか。
教室に戻る道すがら、強引に詰め込んだメロンパンはそのあとの授業の間も、しばらくは俺の胃をもたれさせた。
サクサクのクッキー生地も、中のバターたっぷりのふんわり生地も、普段ならゆっくり堪能できたってのに……。
おのれ、hollyhock・hill。
昼まで知りもしなかったたかがオンゲーに、俺のヘイト値はすでに振り切れそうな勢いだ。
だというのに。
あんにゃろう。
あんなこと言いやがって……。
授業中だというのに、サインフレームの脇にメールランプが点滅し、開けてみると当のあんにゃろうからだった。
『確かにオレの言い方は悪かったかもしんないけどさ。……でも、一度くらいはやってみても損はないと思うぞ?』
教室に戻る前にも、同じようなことを言われた。
『お前さ、やっぱあのゲームをもっとよく知ったほうがいいよ。この学園で穏便に生活したいなら、さ』
そのためには、自分で体験するのが一番だ、と遊馬は言うのだ。
……心配、してくれてるんだろうな、とは思う。
確かに噂だけで物事を理解した気になるのはよくない。
百聞は一見にしかず。
昔のひとはいいこと言った。
……でも、どうしても気が乗らないんだよなぁ。
『放課後まで考えさせてくれ』
そう返信したのが、いま俺にできる精一杯の譲歩だった。
最初のコメントを投稿しよう!